「自分が亡くなった後、家のこと、葬儀のこと、ペットのこと──誰が面倒を見てくれるのだろうか」。

おひとり様で暮らしておられる方、お子様のいないご夫婦、頼れる親族が遠方の方──こうした方々から、近年ますますお寄せいただくのが、死後事務委任契約のご相談です。本稿では、この契約の必要性と、注意点を、簡潔にご説明いたします。

Iなぜ「死後事務委任」が必要なのか

ご家族が亡くなられたとき、ご遺族には驚くほど多くの事務が降りかかります。葬儀の手配、火葬・埋葬、住居の片付け、公共料金の解約、年金の停止、健康保険の喪失届、SNSアカウントの閉鎖、ペットの引き取り先の確保──。

これらは、相続人や近しいご家族が当然のように引き受けてきました。しかし、おひとり様や、頼れるご家族がいない場合、誰がこれらを担うのか。法律上は、誰にも引き受ける義務はありません。

そこで、ご自身の判断能力があるうちに、信頼できる第三者と「自分が亡くなった後の事務を、あなたにお願いする」という契約を結んでおく。これが、死後事務委任契約です。

II成年後見では、死後の事務はカバーできない

「成年後見人がいれば、死後のことも見てくれるのでは」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、これは大きな誤解です。成年後見人の権限は、ご本人の死亡をもって、原則として消滅します(民法第111条第1項第1号)。死後の事務には、原則として後見人は関与できないのです。

もちろん、後見人が「応急処分」として、最低限の事務(火葬、相続人への引継ぎなど)を行うことは認められています(民法第873条の2)。けれども、これは限定的な範囲にとどまり、ご本人のご希望を反映した死後の事務全般を担うものではありません。

Point 任意後見契約・法定後見いずれの場合も、死後事務委任契約は別途必要です。「後見をお願いしているから安心」と考えていると、いざ亡くなられたとき、近しい方が見つからずに行政の対応に委ねるしかなくなる──こうした事例を、私たちは数多く見てまいりました。

III死後事務委任契約で扱える事項

死後事務委任契約で受任者にお任せできる事項は、ご本人のご希望次第ですが、典型的には次のような内容を含みます。

ご希望されるなら、樹木葬や海洋散骨、ご遺骨の特定の場所への納骨など、ご自身ならではのご希望を契約に書き込むこともできます。

IV遺言との違い、家族信託との違い

死後の備えとして、よく混同される三つの制度があります。整理しておきましょう。

制度主な役割カバー範囲
遺言財産の分配誰に何を相続させるか
死後事務委任死後の事務処理葬儀、解約、片付けなど
家族信託生前の財産管理と承継判断能力低下後の管理+死後の承継

これらは競合する制度ではなく、互いに補い合う関係にあります。おひとり様の終活設計では、遺言+死後事務委任の組み合わせが、最低限のセットといえます。

V受任者は誰がよいか

受任者は、ご本人が信頼できる方であれば、誰でも構いません。具体的には次のような選択肢があります。

受任者はご本人より長生きする見込みであることが重要です。受任者がご本人より先に亡くなれば、契約は意味をなしません。年齢の近いご友人を受任者にする場合は、予備の受任者(第二受任者)を定めておく工夫が必要です。

弁護士を受任者とする場合、職業として継続性が確保され、法的な手続にも対応できるという安心感があります。

VI契約の作り方と、費用の目安

死後事務委任契約は、私文書でも有効ですが、公正証書として作成することが推奨されます。公正証書なら、契約の真正性が確保され、金融機関・行政機関での手続もスムーズに進みます。

契約には、次の事項を盛り込みます。

  1. 受任者を誰にするか
  2. どの事務をお願いするか
  3. 事務の遂行に必要な費用は誰がどう負担するか
  4. 受任者への報酬
  5. 第二受任者の指定
  6. 解除・変更の方法

費用面で重要なのは、「死後の事務には、お金がかかる」という現実です。葬儀費用、住居の片付け、明渡しなど、合計で数十万から数百万円が必要となります。これを誰が一時的に立替え、最終的にどこから支払うのか(預託金、生命保険、相続財産など)を、契約段階で明確にしておく必要があります。

Important 当事務所では、死後事務委任契約の作成と、ご希望に応じた受任者としての引受けの両方を承っております。遺言・任意後見契約とあわせて、おひとり様の終活パッケージとしてご提案することも可能です。詳細はお問い合わせください。
In Conclusion
最期のご希望を、確かに届けるために。

死後事務委任契約は、ご自身が亡くなった後の「事務」を整える契約ですが、その本質は、「ご自身の最期のご希望を、確かに実現する」ことにあります。
葬儀をどう執り行うか、お墓はどうするか、愛犬・愛猫の行く末はどうしたいか──こうしたご希望を、確かに引き受けてくれる方を、いまのうちに決めておく。それは、ご自身の人生の最後の章を、ご自身の手で整えることを意味します。
京築のおひとり様、お子様のいないご夫婦の終活設計を、私たちはお手伝いいたします。

監修 弁護士 細川 大介(福岡県弁護士会所属/登録番号 第61505号)
本コラムは、執筆時点の法令・実務に基づいております。法令改正等により最新情報と異なる場合がございますので、個別具体的なご相談は当事務所(担当弁護士・細川)までお問い合わせください。
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